「それから、日曜のピアノのレッスンはどうなってる?」
「……紫苑祭が終わるまで、ハープもピアノもソルフェージュもお休みすることにしたの」
「なら問題ないな」
 クエスチョンマークをそこらじゅうに貼り付けている翠に、新たなる提案をする。
「日曜日は応援団の練習が午前か午後にあるだろ? 空いてる時間があるなら俺の実家へ行けばいい。刺繍なら母さんが教えられる。わからないステッチをロスタイムなく解消できる環境はプラスなんじゃない? それから、佐野とも話をつけてきた」
「なんの……?」
「日曜には佐野とダンスの練習があるんだろ?」
 翠がコクリと頷く。
「佐野は授業でダンスをマスターしている。主に練習が必要なのは翠だ。うちに行けば父さんがダンスの相手をできる」
「え……?」
「ワルツの練習は父さんに付き合ってもらえばいい」
「……いいの?」
「何が?」
「私の衣装を作ってもらうのと、真白さんと涼先生を頼るの……。迷惑じゃない……?」
「俺の記憶違いでなければ、全部俺からの提案だったと思うけど」
 ようやく翠の表情に笑みが浮かんだ。
「長ランひとつとハチマキひとつならなんとかなる気がする……」
 翠はポロポロと涙を零した。
「問題が解消したなら泣くな」
「だって、本当にどうしようかと思っていたから……」
「あぁ、それだけど――空回りしそうになったら俺を呼ぶっていうの、完全に反故にされてる気がしてならないんだけど」
 翠は分が悪いと思ったのか、すぐに非を認める言葉を口にした。