その様を見て思う。しまった、と……。
 翠の頬に手を伸ばし、
「……悪い、泣かせるために来たわけじゃないんだけど……」
 翠は小さく首を振った。
 なんていうか、俺も飛翔のことを言えない。今、翠を追い詰めたのは間違いなく自分なのだから。
「翠、提案がある」
 翠は怯えの混じる視線を俺に向けた。
「衣装作りを手放せ」
「だからっ――」
 怯えていたくせに、今度は食いつくような勢いだ。
「話は最後まで聞け……。翠の衣装は俺が作るから」
 翠は小さく口を開けた。何か声を発したのだとしたら、「え?」だろうか。
「人に迷惑がかけられないとかその手のことを考えていたんだろ? なら、俺に任せればいい。それとも、そんなことも任せられない相手なわけ? 翠の荷物を半分負うくらいなんてことはない。この先も付き合っていくのなら、そのくらいのことはできる間柄でいたいんだけど」
 翠は唖然としたふうで、
「ツカサが作るの……?」
「何か問題でも?」
「……長ランの内布やハチマキの生地には刺繍もしなくちゃいけないのよ?」
「だから?」
「……できるの?」
「母さんの趣味が刺繍。小さいころから見て育っているからスタンダードなステッチは粗方できると思う」
 やったことはないが、できないとは思わない。それに、手先の器用さには自信がある。