「やだ……。会計の仕事は私がやる……」
 ますますもって去年と状況とかぶるが、
「それを続けたらどこに支障が出る? どこに支障が出てもいいことはないんだけど」
「でもっ――」
「でも何? ……初回申請書をもとにミーティングした時点と今では状況が違いすぎる。会計の人間みんなが団長なり副団長の任に就いている。こんな状況で翠ひとりが会計の責を負う必要はない」
 むしろ、副団長に任命されたことを今まで隠していたことを責め立てたい。
 会計職を翠に振ったのは、各組の団長副団長が決まる前のことだった。そして、翠が組の要に位置づけられることはないという先入観に任せ、会計職の大半を振った。
 その後、生徒会自体で顔を合わせることがなかった理由としては、今回の姫と王子の出し物は、競技にひとつ種目が加わるだけで、とくにこれといった準備が必要なかったからだ。
 そのほかの競技においても例年と変わりはなく、実行委員から起案書が上がってくることもなかったため、生徒会が集まる必要性はなかった。だから、翠が副団長に任命されたという情報も入ってこなかった――と思いたいところだが、連日ゲストルームで会っていたわけだから、やっぱり翠が自己申告するべきだったと思う。
「会計職が手放せないなら、ほかの何かを手放せ。ただし、優先すべきものがある以上、消去法になるけど」
 翠は不安そうに目を泳がせる。
「成績が下がるのは生徒会的に困る。だから、授業の予習復習はやめられない。次、翠がどうしても手放したくないものとして、会計職。残るは衣装作りと副団長任務。後者においてはすでに衣装作りが始まっている時点で放棄できず。つまり、最後に残るのは衣装作りなわけだけど――」
「無理っ。だって、私が作るって引き受けてしまったものだものっ」
「なら会計職を手放せ」
「それも無理……」
「少しは進展性のある意見を言ってくれないか」
「だって……」
 言いながら、翠は目に涙を溜めた。