姫と王子の出し物を提示された数日後、応援団長になることを断り続けていたら、嵐が翠を持ち出した。
 嵐に手を引かれて教室に入ってきた翠は、俺から少し離れた場所で嵐の話を聞いている。
「うちの組、まだ団長が決まってないの」
「えっ……? でも、もうほとんどの組が決まっているし、書類の提出も済んでいるんじゃ――」
「っていうか、ほぼほぼ決まってるんだけど、了承しないのよ……」
 まとわりつくような視線を無視して窓の外を見ていると、
「もしかして、ツカサが推薦されていてそれを本人が了承しないとか、その手の話ですか……?」
「当たり」
「あの、もしかして……私に説得ができるとか思ってます?」
 翠の声が上ずっていた。きっと、今頃苦笑を貼り付けているに違いない。
「お願いっ、助けてっ!」
「あの、全然お役に立てる気がしないのですが……」
「ここにいてくれるだけでもいいから!」
「はぁ……それだけでいいなら」
 それだけでいいと言いながら、嵐は翠を俺の近くに立たせた。
「ツカサ、翠葉が誰の衣装作るか知ってる?」
 今度はなんの話をしだしたのか、と視線を向けると、
「翠葉が誰の衣装作るか知ってるか、って訊いてんのっ!」
 そんなの知るか。
 何も答えずにいると嵐が痺れを切らした。