ほぼほぼ隙のないイベント提案に悪あがきをするならば、
「第一、翠が男とふたりで弁当を食べられるとは思えない」
 ここにいるメンバーなら、少し考えればわかるはずだ。それがなぜ、こんなにも普通に提案してくる?
 朝陽を睨みつけていると、緊張感に欠ける声が発せられた。
「え? なんでですかー? みんなで楽しくお弁当食べるだけですよ?」
 頭に花でも咲かせていそうな和やかな発言は飛竜のもの。
 イラついたままに睨みをきかせると、
「あの人、面倒なことに男性恐怖症の気がある」
 実に面倒くさそうに飛翔が解説した。
「えっ!? そうだったんですかっ!? じゃ、何? 俺とか生徒会メンバーって男って見られてないんですか? あれ? でも、そうすると司先輩はっ!?」
 飛竜は翠と俺を見比べ、最後には俺に視線を定めた。その視線を無視していると、
「司も心配性だなぁ……。その点は桃ちゃんがしっかりクリアしてくれてるよ。別にふたりきりで食べろって言ってるわけじゃない。当選した人間への風当たりが強くならないように、当選した人間は友達を五人まで誘っていいことになっているし、姫と王子も五人まで友達を誘っていいことになってる。それにさ、必ずしも姫だけが指名されるとも限らない。当選した人間は、姫と王子の両者を指名することもできる」
 ということは、紫苑祭後三日間は憂鬱な昼時間になるということか……。
 毎度のこととはいえ、よくもまぁここまで隙のないプランを企画する。
 多少尊敬の念を覚えなくもないが、それ以上に最悪だという感情に支配される。しかし、このイベントをもって姫と王子の出し物からは解放されるわけで――。
 ……だめだ、俺が開放されても翠があと一年紅葉祭の生贄になる。
 一昨年までなら自分ひとりが解放されればそれで良かった。でも今は違う――自分が気にかける存在ができた。
 自分に訪れた変化が未だに信じられないこともある。それでも、出逢えたのだ。たったひとり、大切だと思える人間に――。