「寄り添ってる感じがものすごくいいんだけど、翠葉ちゃんもっと笑えないかな? あ、司は無愛想でもかまわないよ」
 朝陽先輩の言葉に思わず噛み付いてしまう。
「どうしてツカサだけっ!? 私も笑いたくないですっ」
「いやいやいや、お姫様にはかわいく笑っていただきませんと」
「サザナミくんの意地悪っ」
「えええええっ!? 俺? 俺だけっ!?」
 むーむー唸っていると、肩越しにツカサに一言見舞われた。
「翠が笑わないと終わらないんだけど」
「自分は笑わなくていいからってひどいっ」
「……そこまで言うなら笑ってもいいけど?」
 すぐさま絶対零度の笑みを向けられ地団駄を踏みたくなる。
「翠葉、ダンスのとき笑って踊ってたじゃん。それと一緒で大丈夫だって」
 海斗くんに言われるも、すでにむくれ顔に表情筋が固定されており、どうやったら笑えるのかすら怪しい。
 極めつけは飛翔くんの一言だった。
「あんたが笑わないと、次にここを使う組が迷惑被るけど?」
 小体育館での撮影だったため、撮影にかけられる時間は限られているのだ。
「……あの、すみません。顔の筋肉ほぐしてくるので少しだけ時間ください」
 小体育館の裏に出ると、私はひたすら顔の筋肉をほぐしにかかった。
 それでも、人前で何かをするのは苦手だし、カメラに向かって笑顔を作るのは、足を出していて恥ずかしいのとは別次元で苦手なこと。
 途方に暮れていると、「翠」と背後から声をかけられた。
 上半身だけで振り返ると、座っていた膝の上にジャージが降ってきた。