紫苑祭を一週間前に控え、ようやくツカサの衣装が仕上がった。
 夜、ツカサがゲストルームへ来たときに交換することになっていたのだけど……。
「ううう……やっぱり渡したくないなぁ」
「は?」
「だって、絶対ツカサのほうがきれいな仕上がりなんだもの」
「そんなの見てみないとわからない」
 いえ、出来上がりを見なくてもわかります。だって、毎晩私の前で刺繍を刺すところを見ていたのだから。
 ツカサはひとつため息をつくと、
「そうだったところで、俺は翠が作ってくれた長ランを着るしかないんだけど……。ほら、さっさと出して」
 私は折りたたんだ長ランをおずおずと差し出した。
 ツカサは手早く縫製を見たあと、刺繍をチェックする。
 そのチェックの仕方やめてぇぇぇ……。
 まるで家庭科の課題を提出した気分になるし、何よりも色んな意味で悲しくなってくる。
 ツカサは開いた長ランをパタパタと折りたたみ、
「そんなひどくないし」
 その言葉のもと、私は自分に差し出された長ランにそっと触れる。
 きっちりとたたまれたそれはまるで既製品のように見えた。
 縫製も丁寧ならば、内布に施された刺繍は手芸部の女の子が刺したと思えるような出来栄えだ。さらにはきちんとアイロンまでかけられている。
「ツカサ、それ一度戻して」
「は? 今更作り直すとか言わないよな?」
「そんな無謀なことは言わない。でも、アイロンくらいはかけたい」
「あぁ、そんなこと」
「そんなことじゃないものっ。アイロンをかけたら少しくらいは見栄えが良くなるかもしれないでしょうっ!?」
 ツカサはくつくつと笑いながら、「わかった」と長ランを返してくれた。