そう言うと、ツカサの手が頭にポンと乗せられた。
 たかがそれだけの行動に心臓がピョンと跳ねる。意識しすぎの自分が恥ずかしい。
 ……さっき、お母さんとあんな話をしたからかな。それとも、ツカサと別れ間際にした会話が原因だろうか。
 視点が定まらずにおろおろしていると、
「玄関のインターホンが押せなかった理由は?」
「……緊張しちゃって」
「何に?」
「……何に、かな」
 ツカサと会うことに?
 それは何か違う気がする。だとしたら、何に緊張していたのだろう。
「……さっき別れ際にした会話が原因?」
「……そうかな? そうかもしれない」
 突き詰めて考える余裕がなく曖昧に答えると、ツカサはため息をついて私の正面に膝をついた。
「確かに翠とふたりきりの空間で自分を律するのは難しい。でも、家に人がいるときや学校ではされたくないんだろ? それなら、テスト勉強やその他でうちにいるときくらいは好きにさせてほしいんだけど」
「キスを」という明確な言葉は添えられないものの、あまりにもストレートな要求に顔が熱くなる。
「その代わり、ゲストルームに行ったときはしないから」
 それはつまり、今まで毎日のように帰り際にしてくれていたキスがなくなるということだろうか。
「今日も一日がんばりました、明日も一日がんばりましょう」のキスがなるなるということ……?
 それはちょっと、すごく嫌かも……。
 視線を上げると、ツカサはテキストの用意を始めており、すでに今の会話が終わってしまったことに気づく。
 私は、「それは嫌」と言えないままテスト勉強をすることになった。