帰宅すると、玄関までホットケーキの甘い香りが漂っていた。
 お母さんはキッチンから顔を出して「おかえり」を言うだけ。たぶん、ホットケーキを焼いていて、その場を離れられないのだろう。
 着替えて手洗いうがいを済ませてキッチンへ行くと、やっぱりホットケーキを焼いていた。
「ホットケーキなんて久しぶりだね」
「そうね。なんだか無性に甘いものが食べたくなって」
「そういうとき、あるよね」
「さ、焼けたわっ!」
 焼きあがったホットケーキにバターを塗って、たっぷりとメープルシロップをたらして食べる。
「「美味しい!」」
「久しぶりだと格別ね」
 私は頷いて二口目を口へ運んだ。
「午後は司くんと一緒にお勉強?」
「うん。ご飯を食べたら十階へ行くことになっているの」
「じゃ、会食までには下りていらっしゃいね」
「そうする」
「ところで……司くんとはどこまでの関係?」
「え?」
「キスくらいはもうしてるわよね?」
 その言葉に私はフォークを落とした。
「お、お母さんっ!?」
「なぁに? そんなに驚いた顔をして」
 食事中にそんなことを訊かれたら驚かないほうがおかしいと思う。でも、お母さんはいたって普通でケロっとした顔をしていた。