会計はともかく、予習復習のくだりを聞けばますます悔しい……。
 さらには刺繍の出来上がりだって、私が作ったものよりもきれいなのだ。
 女の子の立場形無しである。
 でも、ジンクスあれこれを考えると、少し得をした気がしてしまうのも事実。
 好きな人の衣装を作ると想いが通じる。付き合っている人の衣装を作ると仲が続く。好きな人に衣装を作ってもらえると両思いになる――。
 ジンクスは三通りあるけれど、男子が女の子の衣装を作る、というジンクスはない。ジンクスもなければそんな話だって聞かない。
 そんな中、私は好きな人に衣装を作ってもらえるのだ。
 ジンクスにはなくても、これ以上にないくらい特別なことに思える。
 もしかしたら、ツカサがきっかけとなって、新しいジンクスが生まれたりするのだろうか。
 そんなことを考えると、やっぱり嬉しくて、楽しくて、幸せな気持ちになれた。
 ツカサが衣装作りを引き受けてくれたときに感じた申し訳なさも、今は感じてはいなかった。

 マンションのエレベーターが九階に着くと、
「じゃ、昼食摂ったらうちで」
「うん。あ、でも――」
 十階の部屋で一緒にいると理性を抑えるのが大変だと言っていた。それは勉強会のときも、なのだろうか。だとしたら、ゲストルームで勉強をするほうがいいのかな……。
 内容が内容すぎて訊くに訊けないでいると、
「……何を言いたいのかはなんとなくわかる。でも、とりあえずうちで……」
「うん、わかった。じゃ、ご飯食べたら行くね」