不思議そうな顔をしているツカサに、
「待ち合わせが嬉しかったの。ツカサが待っていてくれたことが嬉しかったの。ただ、それだけ」
 ツカサは一瞬言葉に詰まったあと恥ずかしそうに顔を背け、「帰るよ」と私の手を取って歩き始めた。
 言わせたのはツカサなのに、そんな顔も態度もずるい……。
 手、つないで歩いてくれるなんてもっと嬉しいんだから。

 一緒にいて会話がないことは珍しくないけれど、手をつないでいて何も会話がないと、手の平に全神経が集中する。
 十月に入ったけれど、まだそこまで涼しくはない。外気とツカサの手だとツカサの手のほうがあたたかいくらい。
 ツカサは冷たい私の手を握って何を感じているだろう。
 手を握る力は強くはなく、ふとしたら離れてしまいそうで、ツカサに遅れず歩こうと必死になる。すると、
「悪い、歩くの速かった?」
 訊かれて首を振る。
「違うの、手が離れちゃいそうで――」
 言って失敗したと思った。でも、何も言わずに握りなおしてくれて、そんなことが嬉しいと思えた。
「衣装作り、ツカサはどこまで進んだ?」
「来週半ばには完成する予定。翠は?」
「私は早くても再来週の半ばくらいかな。……私のほうが早く作り始めたのに、ツカサのほうが先に出来上がるなんて悔しいなぁ……」
「仕方ないだろ? 俺は会計の仕事をしていないし、翠ほど予習復習の必要もない」