「学校にいる時間を活用、かな……」
 最後はミシンで一気に縫うにしても、刺繍は地道にやるしかないのだ。それなら、常に持ち歩いて、できる時間はすべてそれに費やすべきだろう。
 できるとしたら、授業間の休み時間のみ。ざっと計算しても二十分に足るか足らないか……。それでも、やらないよりはいいはず。
 何より時間がかかるのは、自分が着る長ランとツカサが着る長ランの内布に施す刺繍。
 内布全面に刺繍をするわけではない。ヒラリ、と長ランを翻したときに見える場所のみに施す。しかし、ハチマキ以上の面積に刺繍をしなくてはいけないし、普段し慣れない作業はひどく時間を要する。
 そんなことを延々と考えていたため、夕飯までの一時間はまったく休むことができなかった。

 夕飯の席で、
「リィ、ちゃんと休んだ? ……ってか、目、充血してるっぽい?」
「ちょっとゴミが入っちゃったの」
 すんなりと嘘が出てくる自分に驚いた。
 こういうのはあまりいい傾向ではない。またひとりで空回ることになる。
 それだけはどうにか避けなくちゃ……。
 でも、ご飯を前に思うのだ。まだ食べられなくなってはいない、と。
 直後、頭の中にツカサの声が響いた。「食べられるうちにどうにかしないと意味がないだろ」と。
「――だったのか? ……翠葉?」
「えっ……?」
 顔を上げると、蒼兄が心配そうな顔をしており、気づけばテーブルに着いているみんなが私に視線を向けていた。