末の息子が夏休みに車の免許を取り、明日はお付き合いしている御園生さんを連れて出かけるという。
「……不安、ですね」
「何がですか……?」
 新聞を読みながら零した言葉を愛しい妻に拾われた。
「明日でしょう? 司が御園生さんと出かけるのは」
「えぇ、そう言ってましたけれど……。司の運転が不安、ということでしょうか?」
「そうです。私はまだ司の運転を体験していませんし、何より、司自身が私の車に乗ったことがありません」
 真白さんは「そう言われてみれば」という顔をしていた。
「明日は午後から出かけるそうですよ」
 私は少し考え、
「真白さん、出かける用意を」
「お出かけ、ですか?」
「司が帰宅したら予行演習をさせましょう」
 その言葉に真白さんは嬉しそうに笑みを浮かべ、ソファから腰を上げた。
 自分は司付きの警護班に連絡を入れる。
『高遠です』
「いつも息子がお世話になっています」
『いえ、こちらは仕事ですから』
「その仕事にひとつお願いがあるのですが」
『なんでしょう?』
「司が免許を取ったのはご存知ですよね」
『はい』
「その件なのですが、運転に慣れるまで、何度か運転に付き合ってやってもらえませんか?」
『お安い御用です』
「それから、私と真白さん、司の三人で今からドライブへ出かけます。行き先がわかったら追って連絡しますが、真白さんづきの警護班にもご連絡いただけますでしょうか」
『かしこまりました』