少し翠から離れ、
「……話戻すけど、今度からは秋兄が何を言ってきてもうろたえない自信があるから約束を反故にした?」
「うん、そういうことになる。……いいかな?」
「わかった。……けど、もしキスをされたり抱きしめられたら――」
「……されたら?」
 翠は俺の言葉をたどるように次を求める。
「そのときは、翠の気持ちを待たずに翠をもらうから、そのつもりで」
 翠が悪いと思っているのなら、このくらいは言っても許されるだろう。そのくらいの気持ちで口にした。しかし、翠はえらく真に受けた表情で、
「じゃぁ、絶対にされないようにしないと……」
 と口元を引き締める。
 まぁ、相手は翠だ。このくらい警戒していてちょうどいいくらいだろう。
「俺はどっちでも良くなってきたけど」
 半分本心で答えると、
「ツカサ、げんきん……」
 翠は俺の腕に自身の腕を絡めて少し笑った。
 歩くことを再開したときには心がだいぶ軽くなっていた。
 こんな会話をするときはいつも緊張を強いられる。でも、今日はどこか冗談ぽく終われた気がしなくもない。
 すぐそこで波音を立てる海とは違い、俺の心は波風を立てることをやめたようだった。