こんなに大声を出す翠を見たことがなくて呆気にとられていると、
「先日、雅さんに言われたの。自分が自分を信じないで誰が自分を信じるの、って。目から鱗だった。でも、言われた言葉はストンと胸に落ちた。だから、今は自分の気持ちを信じてる」
 翠は完全に歩みを止め、俺の正面に立った。
 真っ直ぐに見つめられ、
「私はツカサが好き……。もう、この気持ちがいつまで続くかなんて考えない。この先もずっとツカサが好き。ほかの人を好きになるつもりはないの」
 曇りない目が俺を見ていた。
 翠の言葉を疑うわけじゃない。でも、こんなことを聞かされたあとでは素直にすべてを受け止めることができず、
「……それ、信じてるって言うんじゃなくて思い込みに見えるけど」
 声が震えなかったのは奇跡だと思う。そのくらい、俺は動揺していた。
 翠は少し視線を下げ、
「今日は意地悪って言えないな……」
 しかし、すぐに視線を合わせてくる。
「ね、その境目ってどこにあるのかな? 私、どっちでもいいの。思い込みであっても信じているのであっても。結果が変わらないのなら問題はないかな、って」
 たまに思う。翠は几帳面なのか大雑把なのかわからない、と。
 未だとりとめのない奇妙で愛しい生き物を見ていると、
「ツカサ……?」
 どこか浮遊感を感じる声が俺を呼んだ。