東屋に落ち着くと、俺はかばんから情報誌を取り出した。
「翠はどんなところへ行きたい?」
 先日、父さんに車で出かける際にはどこへ行くのか事前に話すように言われた。さらに、遠出する場合には警護についている人間をつき合わせて運転の予習をするように約束させられた。だから、行きたい場所を粗方聞き出してしまおう、そう思って質問を繰り返していると、
「ツカサっ、次から次へと訊きすぎっ! そんな一気にたくさん出てこないよっ!」
 翠にしては珍しく、声を大にして遮られた。
 そんなに問い詰めすぎただろうか、と思っていると、翠に手を取られた。
「それにね、毎回どこかへ出かけようとしなくていい。ツカサと一緒にいられたらそれで十分」
 素直にその言葉は嬉しい。嬉しいけど、出かけないとなると会う場所は必然とマンションの十階になるわけで――。
「翠が良くても俺が困る」
「え……?」
「家で会うの、理性保つのに意外と必死なんだけど……」
「そう、なのね……。気づかなかった、ごめん」
 言った途端に翠が手を離そうとするから、俺はつなぎとめるように翠の手を握りしめた。
「いい……待つって言ったのは俺だから」
 こんなことで関係がギクシャクするのはごめんだ。秋兄と同じ轍は踏まない。
 空気を変えるために立ち上がり時計を見る。と、すでに五時を回っていた。
 まだ日が沈む気配はないけれど、それなりに時間は経っていたらしい。
「五時を回った。砂浜を歩いて駐車場へ戻ろう」
「うん」
 駐車場へ戻るまでに二十分は歩く。日曜の夕方という交通状態を踏まえれば、藤倉へ着くのは七時を回るか回らないか、といったところだろう。