「……蒼兄や唯兄が免許を取ったときも助手席に乗っていたのだけど、同年代の人の車に乗るのは初めてで、いつもと違う状況にドキドキするというか……」
「あぁ、そういう意味……。でも、これからはそれが普通になるんじゃない?」
「え?」
「一定の年になれば誰でも免許は取れるし、自分が年をとれば必然的にそういうシーンが増えるだろ」
「……そっか」
「安心していい。そんなに緊張しなくても安全運転を心がけるから。……ただ、何がきれいって言われてもそっちを見ることはできないけど」
 翠は口を噤んだが、ようやく緊張がほぐれたのか、シートに深く背を預けたのが感じられた。
「到着まで一時間かからないくらいだから、少し休んでれば?」
「でも――」
「今日は午前から動いてるだろ。海に着いたら多少なりとも歩くわけだし……」
 こんなに緊張されていたら、嫌でも緊張が伝染する。
 危ない運転をするつもりはないけど、肩に変な力が入るのは避けたかった。
 翠は戸惑ったまま俺の顔を見ている。
 たぶん、申し訳ないとかその手のことを考えているのだろう。
「これから先、ずっと一緒にいるわけだから、今少し休むくらいなんてことはない」
 それこそ、これから何十年も一緒にいるわけだから、そのうちの一時間なんてどうってことはないわけで……。
 ほかにどんな言葉を追加できるか考えていると、
「……じゃ、少しだけ」
 翠はようやくシートを倒した。