デート当日、建物から出てきた翠は俺を視界に認め、嬉しそうな顔をした次の瞬間、歩みが少し鈍った。
 幅三メートルの歩道をゆっくりと横断して、俺の目の前にたどり着いてももじもじとしている始末。
「お疲れ様」と声をかけると、
「迎えに来てくれてありがとう」
「どういたしまして」
 どこかカチコチとした様に違和感を覚える。
「とりあえず、助手席にどうぞ」
 ドアを開けて促すと、やっぱりカチコチとした動作でシートに収まった。
 俺が運転席に収まり車を発進させても様子は変わらず。
 緊張しているのが丸わかりなのだが、この場合、緊張するのは俺のほうではないだろうか。
「車、涼先生の?」
 片言の質問に、「そう」と答える。
 隣の翠は、浅い呼吸を繰り返し、
「なんだか緊張するねっ?」
「俺の運転が信用ならないってこと?」
「えっ!? そういうことじゃなくてっ――」
 どうしててんぱっているのかがまったく理解できない。
 翠は落ち着かない様子でこう続けた。