「……ちょっと待て。理由も何も話さず切るなよ――」
 そんな言葉はむなしく部屋に響くのみ。
 これは本人を捕まえて話す必要がある。そう思っていたにもかかわらず、週末までふたりきりで話すことができなかった。
 金曜日の夜に電話をかけると、話したいと思っていたのが自分だけではなかったことに気づく。
 翠もあれだけで終わり、というつもりはなかったらしい。
 結果、当初から出かける予定が入っていた日曜日に話すことが決まった。

 土曜日の夕方、部活から帰ると父さんに声をかけられた。
「日曜日に御園生さんと車で出かけると聞いたが」
「それが何」
「どこまで行くつもりだ」
「白浜海浜公園」
「今から行くぞ」
「はっ!?」
「免許を取ってから運転していないだろう? うちの車にも乗ってない、走ったこともない道を通る。そんな不安要素ばかりでよそのお嬢さんを乗せられるか」
 確かに、免許を取ってからは一度も運転をしていないし、家の車にも乗ってはいない。さらには、父さんの言うとおり、初めて自分が運転する道でもある。
 自分の運転が危なっかしいとは思わないし、そこまでの不安もない。それでも、大切な人を助手席に乗せる、ということを考えれば、用心にこしたことはないと思えた。
「ハナのお散歩もかねて、みんなで行きましょう?」
 にこやかな母さんはすでに身支度を終えていた。
 そんなわけで、俺は前日に予行演習なる運転をして日曜日を迎えることになった。