私は雅さんの影から秋斗さんの前へ進み出る。
 秋斗さんは、「なんだろう?」といった感じで私を見ていた。
「あの、ものすごく色々と申し訳なかったのですが、先日話したこと、気にしないでください」
「え……? 先日話したことって――」
「マンションの通路でばったり会っても大丈夫です。意味もなくふたりきりになるつもりはありませんけど、ふたりきりになっても不必要に困ったりしません」
 秋斗さんは首を傾げた。
「でも、それって司に言われてのことだったでしょう?」
「はい」
「司はいいって言ってるの?」
「さっき承諾してもらいました。そのかわり、抱きしめたりキスをするのはなしですよ? 絶対に絶対になしですよ? 私、叫びますからね?」
 できる限りの牽制をして見せると、
「あれ? 俺どこかで何か失敗したのかな……」
「いいえ、秋斗さんは何も失敗していないと思います。ただ、私の気持ちが安定しただけ」
 秋斗さんはさらに首を傾げた。
「どういうこと?」
「前にも話しましたけど、私が好きなのはツカサです。だから、秋斗さんの気持ちにには応えられません。大切なのはそれだけだと気づいたので……」
 そこまで言っても秋斗さんが黙ることはない。それどころか余裕の面持ちで、
「でも、未来はわからないでしょう? もしかしたら、司がほかの女の子を好きになるかもしれないし、翠葉ちゃんがほかの人を――たとえば俺を好きになるかもしれない。過去には前例もあるし」