話がひと段落したところで改めてお茶を淹れなおし、今度は雅さんへ質問を向ける。
「雅さんは……?」
「え? 私……?」
 雅さんはきょとんとした顔で私を見た。
「はい。どなたか好きな人はいらっしゃらないんですか?」
 雅さんは少し頬を染めて苦笑を漏らす。
「実はね……翠葉さんの恋愛相談を受けるには相応しくない人間なのよ」
 細い肩を竦めた雅さんはこう続けた。
「私、高等部までは藤宮に在籍していたのだけれど、人間不信だったこともあって、交友関係という交友関係を築いてきていないの。さらには、藤宮の人間として見られていたこともあって、人との間には常に壁があった感じ。そんな状況下で誰かを好きになることはなかったわね。大学は別の学校へ行ったけれど、学業に没頭していて恋愛をする余裕もなかったし……。それに、他大学へ行っても藤宮の人間と見られることに変わりはなかったの。そのあとは翠葉さんも知ってのとおり。秋斗さんにこだわっていた時期があるけれど、それだって純粋な好意ではなかったわ。……恥ずかしいけれど、こんな年になってもまだ、初恋という初恋はしていないの」
 その話に、少し親近感を覚えた。