「翠葉ちゃん?」
「っきやぁっ――」
 目の前に秋斗さんの手が伸びてきて驚く。
「な、なんでしょう……?」
「なんでしょうじゃないわよ? 食事中に何ぼーっとしているの? ご飯が冷めちゃうからって秋斗くんが声をかけてくれたのよ?」
 お母さんに言われてなるほど、と思う。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて……」
「リィ、ご飯を食べるときは?」
「ご飯を作ってくれた人に感謝して食べる」
「よくできました。なら今は、考え事は置いといてご飯を食べるべきだよね?」
 唯兄に諭され、改めてお母さんと栞さんに謝った。

 食後のお茶はみんなとはいただかず、ひとり自室へ戻って飲むことにした。
 夏休みの宿題を見返しながらも、頭の容量を占めるのはツカサとの約束。
 家族も一緒にご飯を食べる分にはかまわないと思うけれど、
「マンションの通路やエレベーターでばったり会っちゃったらどうしよう……」
「誰と?」
 その声に心臓が止まりそうになる。
 視線を上げると、ドア口には秋斗さんが立っていた。