――「秋兄とふたりきりにはならないで。秋兄を冷たくあしらうことができないのは仕方ないとしても、これだけは守ってほしい。秋兄の手癖の悪さはよく知っているし、翠の無防備っぷりも理解してる。だからこそ気をつけてほしい。うっかり抱きしめられたり、うっかりキスされたり、そういうのはなしにして。……もし、そういうことがあったら隠さず白状して」。
 そう言われたのは八月三十日。つい昨日のこと。
 まるで、「触れられないで」と懇願されている気がした。
 ツカサのお願いならなんでも聞きたいし、ツカサとの約束はきちんと守りたい。でも、それが思ったよりも難しいことだと気づくまでにそう時間はかからなかった。
 二学期が始まる前日、つまり今晩から秋斗さんが加わる夕飯が再開されたからだ。
 秋斗さんはテスト前、テスト中にかかわらず、土日以外の日は毎日のように夕飯を食べに来る。さらには、「お邪魔します」や「こんにちは」――にこりと笑って挨拶をされる際には手が伸びてくることも少なくはない。
「ふたりきりで会わないで」の部分は守れても、秋斗さんの手から逃れるのは至難の業だろう。
 それに、おもむろによけてしまうと、避けているように思われてしまいそうで少し怖い。
 人に避けられるのはひどく傷つくことだ。かつて自分がされたことがあるだけに、人にはしたくないと思ってしまう。では、どうしたら普通に接することができるのか――。