「……翠は自分にできる範囲で俺を選んだって見せてくれただろ。だから――」
 これ以上格好悪いことを言わせるな……。
 そう思いながらも、今翠が手にしている携帯のストラップを見て安堵する。
「翠は何を案じてる?」
 本当は、海水浴に行った日に何が起きたのかを知りたかった。でも、ストレートには訊けなくて、結果こんな間接的な尋ね方になる。
「……私はツカサが好きだよ。秋斗さんのことは大切な人ではあるけれど、恋愛感情は持ってない。ストラップとかそういうのは、何を考えることなくツカサからいただいたものを選べる。でもね、秋斗さんの気持ちすべてを拒絶することはできないの。もし、自分がツカサに拒絶されたら、って考えると怖くて――とてもじゃないけど、自分がそれを人にすることはできないの。でも、それでツカサが不安に思っているのだとしたら、私はどうしたらいいのかな……」
 そこまで言われて、抱きしめたい衝動に駆られた。我慢できたのは、エレベーターの中だから。
 さらには、そのエレベーターはすでに十階に着いており、一度扉が開いて今は閉じている。
 完全に降りるタイミングを逃した。
「翠はそんなことまで気にしなくていい。たぶん、不安になるのは俺個人の問題だから」
 翠は何を思っているのか食い入るように俺を見ている。居心地の悪さに拍車がかかり、
「もし、翠が同じようなことで不安に思っていたとしても、俺だって翠と同じことしかできない。もっとも、俺の場合はどんな人間に言い寄られても冷たくあしらうことしかしないだろうから、そのうえで翠が不安になったとしても、それ以上にできることなんてないわけだけど」