今日、翠は海水浴へ行く日だったか――。
 もし自分が藤倉にいたなら、無理やりにでも違う予定を入れたものを……。
 ……単純な話、水着ほど軽装になる翠を視界には認めたくなかったし、そんな姿を秋兄やほかの男にだって見せたくはなかった。
「行かなくていいものを……」
 行くか迷ってる、とは言っていたが、たぶん周りの人間に引っ張り出されていることだろう。
 発起人が海斗だった暁にはどうしてやろうか……。

 午前午後、座学と技能教習が終われば自由時間になる。その時間を使ってほかの参加者と友好を深めようとする者もいれば、俺のように部屋に篭る人間も少なくはなかった。
 夕飯とシャワーを終えてニュースに目を通していると、ここ数日音沙汰のなかった携帯が鳴り出した。
「翠……?」
 電話に出ると、ぎこちないイントネーションで「こんばんは」と言われる。
 相も変わらず電話というツールが苦手なのか、別に問題があるのか――。
『今、何してた?』
「ネットでニュースを見ていただけだけど?」
『そうなんだ……。あ、天気予報見た?』
「いや……見てないけど」
 記憶が確かなら、しばらくは天気が崩れるようなことはなかったはず。
 翠は、その代わり映えしない天気予報を教えてくれた。