家に入るとツカサは真っ直ぐ洗面所へ向かい、すぐに手洗いうがいを済ませた。洗面所から出てきたツカサにおいでおいでをされて近づくと、前からすっぽり抱きすくめられる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 今更な挨拶に笑みが零れる。もう一度「おかえりなさい」を言うと、「ただいま」のあとにキスをされた。
 顔が離れ身体を解放される。と、思わずツカサの腕を掴んでしまう。
「何……?」
「えと……」
 ツカサの黒いシャツを見ながら考える。
 自分から抱きつくのもキスをするのも無理。でも――。
「ツカサ……ぎゅってして?」
 顔を見ては言えない。でも、要求することならできる。
 ツカサは少し間を置いてからゆっくりと抱きしめてくれた。ふわり、と優しく包み込むように。
 私はツカサの背に腕を回し、自分がされる以上の力をこめてツカサに抱きついた。
「翠……?」
「……キス、して?」
 言ってツカサを見上げ、
「……私はツカサが好きだからね。ツカサだけが好きだからね」
「……ありがとう」