「そのクレームは受け付けねーぜっ。人力か機械を使ったかなんて、見た目じゃわからないんだからなっ! 来年のバレンタインこそ、ちゃんと特別感を演出しろよっ?」
「……むぅ、納得いかない」
「いかなくてもなんでもっ! これだけは他人事だけど譲れないっ!」
 ふたり見合って「引かない」意思を固持するものの、一分と経たないうちに佐野くんが離脱した。
「それはひとまず置いておいて、御園生が気づいたんだから間違いないよ。たぶん、先輩は不安なんだ。どうにかしてあげなよね、御園生にしかできないことなんだからさ」
「……ん」
 佐野くんの真似をして、私もレジャーシートに転がる。
 タープの下で目を瞑っても、容赦のない光をそこかしこに感じる。
 そんな中、私がツカサとしかしないこと、ツカサにできることを想像してみた。
 手をつなぐことなら問題なくできるだろう。でも、ぎゅっとするのは――。
 今までだって、何度か抱きしめられたことはある。でも、自分から抱きついたことはないのではないだろうか……。
 あるのは、泣いて縋ったことがあるくらいのはず。そのうえキスだなんて……。
 なんてハードルが高いのだろう。
 ツカサを安心させたい。その気持ちは嘘じゃない。でも、実際に行動に移すとなると、ひどく難しいことに思えた。