目の前にいたのは秋斗さんだった。
 秋斗さんはおかしそうにクスクスと笑っている。
 恥ずかしく思っても、秋斗さんから離れることはできなかった。代わりに、
「唯兄……もう、やだ……。怖いし、恥ずかしいし……浜辺に戻りたい」
 泣いて訴えると、
「うーん……兄としてはもう少しがんばらせたい所存」
「やだっ」
「じゃぁさ、もうちょっと浅いところまで戻ろうよ。そこからがんばってみよう?」
 秋斗さんに優しく宥められ、再度移動が始まった。
 今度下ろされたところはきちんと足がつく場所。けれども、波がくると潜ってしまいそうになる。そのたびに、「ジャンプっ!」と唯兄に声をかけられ、必死にジャンプしていた。
 何度か繰り返すとコツが掴めてくる。
「そうそう、その調子」
 波に合わせてジャンプするのが少しずつ楽しくなってきたところへ佐野くんがやってきた。
「秋斗先生、唯さん、海斗と蒼樹さんが遠泳対決しませんか、って。あそこの岩までらしいですけど」
 と、遠くの岩を指差す。秋斗さんと唯兄は私を見てどうしよう、といった顔になった。