「この辺かな?」
 秋斗さんの言葉に不安を覚え、胸の前で組んでいた手に力がこもる。
 秋斗さんはクスクスと笑い、
「できることならずっと抱っこしていたいんだけど……下りてみない?」
 秋斗さんが何を言っても気にする余裕もなかった。
 私は逡巡する。
 水深は唯兄の肩あたり。私の頭、水の上に出るのかな。
「ゆっくりと下ろすよ」
 言われてすぐに下ろされた。
 あ、し……つく?
 爪先に砂が触れ安堵した次の瞬間、ちゃぷん、と頭まで水の中に浸かってしまった。
 怖いっ――。
 咄嗟に出た手を掴んでくれた手があり、必死にその手にしがみつく。
 顔が水から出て、ケホケホと咽るも、すぐにまた水の中に潜ってしまった。けれども、今度は水中で身体を掬いあげてくれる腕があった。
 ザバッ、と水から顔が出て相変わらず咽ていると、
「波は動いてるからね、波が来たらジャンプしないと潜っちゃうよ」
 唯兄の声は少し離れたところから聞こえてきた。では、私がしがみついているのこの人は――。