「ごめん……。いつも訊かれるたびに拒んでて、ごめん……。でもっ――」
「わかってる……。翠が怖いって言うなら待てる限りは待つ。それで嫌いになったり愛想を尽かしたりはしないから心配しなくていい。でも、何かしら交換条件をもらわないと俺も我慢はできないから」
「……それが、これ……?」
「そう」
 翠が段階を踏まないと前へ進めないのなら、その段階を作り提示しよう。そうして前へ進めるのなら無理強いはしない。
「きっとこれからもこんなふうにキスをすることがあると思う。でも、これだけは拒まないで」
 翠はコクリと頷いた。
「それから……少しずつでいいから、翠にも心の準備をしてもらいたい」
 翠は口を真一文字に引き結び、ひどく慎重に頷いた。
「ありがとう……今はそれで十分だから」
 たぶん、少しずつではあるけど前へは進めている。それなら、翠のペースを守るのも悪くはない。
 何もかもが今さらだ。翠を好きになって想いが通じるまでにだってひどく時間を要したのだから、同じくらいの時間を要したとしても、いつか求める場所へ到達できるのなら、回り道だって惜しみはしない――。