想いが通じて七ヶ月。付き合い始めてから五ヶ月。キスの先を意識し始めて四ヶ月――。
「ツカサ、どうかした?」
 本を手に全く違うことを考えていたら、翠に声をかけられた。覗き込まれた拍子にキスをする。と、翠はきょとんとした目で俺を見た。
「……どうして、キス?」
「したくなったから」
 こんな至近距離に顔があったらキスをしたくなる。でも、翠は俺とは違うのかもしれない。だから、こんな疑問を問いかけられるのだろう。
 目をぱちくりとさせる翠に、
「そのままでいるとまたキスするけど?」
 翠は脊髄反射張りに身を引き口元を押さえた。
 ……こんな状態だというのに、翠は俺の願いごとをきけるのだろうか。
 翠の気持ちを優先させたい。でも、自分の欲求の高まりを抑えられる気もしない。だからこその「願いごと」。
 率直に抱きたいと伝えてそれが受け入れられないのなら、代わりとなる何かを得たい。今回はそこまで話を詰めたい。
「翠、インターハイで優勝したら、の約束、覚えてる?」
「え? あ、うん。覚えてるよ?」
「……ならいい」
「……本当にどうしたの?」
「なんでもない」
 あっさりと引き下がった翠は俺の隣で楽譜を広げ、楽しげな表情で音符を追っている。
 きっと、「願いごと」に「自身」を要求されるとは思ってもいないのだろう――。