「秋兄とは本当にこれだけ?」
 コクリと頷くと、ツカサにぎゅっと抱きすくめられる。
「ツカサ……?」
「……俺、独占欲強いのかも」
「え……?」
「俺の知らない翠を秋兄が知っているのは許せそうにない。でも――」
 言葉の続きを待っていると、腕の力が少し緩められた。
 そっとツカサの顔を見上げると、
「これ以上の翠を秋兄も知らないのなら、もう少し待てる気がする」
「ごめん……。いつも訊かれるたびに拒んでて、ごめん……。でもっ――」
「わかってる……。翠が怖いって言うなら待てる限りは待つ。それで嫌いになったり愛想を尽かしたりはしないから心配しなくていい。でも、何かしら交換条件をもらわないと俺も我慢はできないから」
「……それが、これ……?」
「そう。……きっとこれからもこんなふうにキスをすることがあると思う。でも、これだけは拒まないで」
 私はコクリと頷いた。
「それから……少しずつでいいから、翠にも心の準備をしてもらいたい」
 それはきっと、「性行為」への心がまえ――。
 待ってもらうばかりじゃだめ。怖がっているだけじゃだめ。前に進む努力をしないと。
 きっと、ツカサとなら大丈夫……。
 私は一大決心をしたつもりで、慎重にコクリと頷いた。
「ありがとう……今はそれで十分だから」
 そう言うと、再び優しいキスが降ってきた。