それはインターハイ一週間前のこと――。
「ツカサ、どうかした?」
 手に本を持っていたツカサは、本を読むでもなくぼーっとしていた。
 らしくないな、と思って顔を覗き込むと、目が合った次の瞬間にキスをされた。
「……どうして、キス?」
 単純な質問。
 ぼーっとしていたのに、どうして突然キスだったのだろうか、と思っただけ。
 すると、返ってきた答えも同じくらい単純なものだった。
「したくなったから」
 いつだってツカサの考えていることはわからない。でも、この日はいつも以上にわからなかった気がする。
 じっとツカサを見ていると、
「そのままでいるとまたキスするけど?」
「えっ、あ――」
 ツカサから離れて口元を押さえる。
 別にキスをされたくないわけじゃない。でも、なんとなく、の行動。
「翠、インターハイで優勝したら、の約束、覚えてる?」
「え? あ、うん。覚えてるよ?」
「……ならいい」
「……本当にどうしたの?」
「なんでもない」
 ツカサは少し眉間にしわを寄せ、どこか困惑している表情に見えた。でも、私はそれほど深刻に考えるでもなく、ツカサと交わした約束を思い出しては「どんなお願いごとなのかな」とぼんやりと考えていただけ。
 そんな私はあとでとても驚く羽目になる。