「そういうのわかるけど、こういうときこそ周りを見ないとだめだよ」
 聖くんの言うこともわからなくはない。わからなくはないけれど、不安になればなるほど内へ内へと考えがめぐってしまう。それを強制的に遮断する方法など知らない。
 お風呂に入れば少しは気分転換ができるけれど、それは一時的なものにすぎない。
「あのさ、うち、音楽教室でしょ? しかも、両親と従姉が音楽家。さらには、音楽家を派遣する事務所も兼ねてたりするんだよね。だから、俺たちは音楽についての職業を小さい頃から目にする機会があったんだ。見て知っているから柊は音楽の世界を選んだし、俺はやめた。そういうの、ここに通ってくれば御園生さんも見られると思うよ。あとは簡単なアルバイトなら紹介できるし」
 音楽の世界……職業……アルバイト?
「柊も俺も、教室でバイトしてる。子連れの人がレッスンに来れば、子どもと遊ぶのも仕事のうち。あとはレッスン時間の調整や、入会手続き、その他雑用。こことは別で、ピアノのショールームでピアノを弾くアルバイトもある。そういうのを見たりやったりしながら過ごせば何か見いだせそうじゃない?」
 あまりにも多くのものを提示されて、頭の中が整理できずにいた。
「御園生御園生、呼吸止まってるから」
 佐野くんに肩を軽く叩かれ、はっとする。