「御園生、進路票提出できた?」
 佐野くんに訊かれたのは、夏休みを目前とした終業式の日だった。
「えと、実はまだで……ホームルームが終わったら進路指導室へ行かなくちゃいけないの」
「御園生だったら理系でも文系でもどっちにでも進めるじゃん?」
「うん……なんていうか、それ以前の話、かな。将来なりたいものがまだあやふやというか……」
「あぁ、まだそこで悩んでるんだ?」
「まだ」の一言がグサリと胸に突き刺さる。でも、佐野くんに悪気はないし、「まだ」と言われてしまっても仕方のない環境がここにはある。
 すでに、クラスメイトの大半が将来を見据えた進路を決め、進路票を提出し終わっているのだ。
「そうなの。私、出遅れてるよね……」
「で? 先生に提示できる指針みたいなものはあるの?」
「んー……音楽とカメラと植物……まとまりないでしょう?」
「確かに……」
 佐野くんは苦笑した。