「外、結構暑いですけど……本当に徒歩で大丈夫なんですか?」
「うん。妊婦は必要以上に休んでちゃだめなのよ。歩けるなら歩かないとね」
 そんな話をしながら一階へ下りると、
「果歩様、お車をご用意いたします」
 崎本さんがカウンターから車のキーを取り出す。しかし、
「崎本さん、歩いていくからいいわ」
「ですが、楓様からお出かけの際は送迎するように言われておりますので……」
「うん、それ却下でお願いします。翠葉ちゃんも一緒だし、警護班の人たちも近くにいるから大丈夫です」
 崎本さんはまだ何か言おうとしていたけれど、果歩さんは気にせずエントランスを出てしまった。

「しっかし、何この太陽。容赦なさすぎでしょ。妊婦を労わりなさいって話よね?」
 果歩さんは言いながらもずんずん歩きだす。そして、学園私道に入った途端、
「妊婦にこの坂はきっついわ……」
 日傘を差した果歩さんは額に汗をかき、呼吸が少し上がっていた。