「……見逃してやるからうまく逃げろよ」
 思わぬ言葉に目を瞠る。そして、走り出そうとした飛翔くんのシャツを掴んだ。
「何……」
 ひどく嫌そうな顔がこちらを向いた。
 これは、「これ以上面倒なやつの相手をしたくない」だろうか……。
 そんな予想をしつつ、
「私、ちゃんと参加しているの。見逃されたら味噌っかすみたいでしょ? それは嫌だからちゃんと捕獲して」
「……意味わかんね」
「意味、わからなくないよ。……ちゃんと参加させて? 私の存在を無視しないで」
 飛翔くんはため息をつくと、「了解」と私の腕を掴んだ。
 ただ芝生広場へ連行されるだけだと思っていた私は動揺する。それに気づいたのか、飛翔くんは腕を離して頭をガシガシと掻いた。
 仏頂面に見下ろされ、
「これは? 男性恐怖症っぽいこれ、なんか理由あんの?」
「え? あ……もともと男子は苦手で――」
「だから……それ、理由があるのかって訊いてんの」
 男子が苦手だから、というのは飛翔くんにとって理由にはならないらしい。でも――そこを突き詰めて考えたことはなかった。