キッチンへ入ると、今までとはだいぶ様相が変わっていた。
 兄さんしか住んでいなかったとき、この家にはキッチンツールなるものは揃っていなかった。が、今は必要最低限プラスアルファくらいには揃っているように見える。そして、ところどころに女子が好みそうなアイテムが鏤められていた。
 自分にコーヒーを淹れる傍らで、義姉さんはリンゴジュースを冷蔵庫から取り出しグラスへ注いでいた。
「食事、摂れるようになったんですか?」
「あぁ、悪阻? 前ほどひどくはなくなった。でも、食べられるものと食べられないものはキッパリ分かれるね。未だにご飯は炊きあがる匂いですら無理っ」
「兄さんの食事は?」
「楓さんは気を使って病院の食堂で食べてきてくれるの。それに、私、料理はあまり得意じゃないし、きっと食堂のほうがレパートリー豊富よ」
 それもどうかと思うけど……。
「出産が終わって落ち着いたら、お義母さんに料理を習う約束してるんだ」
 義姉さんは嬉しそうに笑った。