六月の終わり、俺は兄さんの不在を確認してから義姉さんを訪ねた。
「あっれー? 司が来るなんて珍しいね? 楓さんに用? でも、今日は楓さん夜勤でさっき出たところだよ?」
 玄関で俺を見た途端にずら、とここまで話すのは旧姓東果歩――今は藤宮果歩。兄さんと結婚して俺の義姉になった人。
 弾丸トークなら嵐にも引けを取らない気がする。
「義姉さんに訊きたいことがあって」
 義姉さんは一拍置いてから、
「なるほど……。楓さんには聞かれたくないことなんだ? だからこのタイミング? でもさぁ、高校生のくせに私の論文の資料をいとも簡単に見繕ってきた司が私に何を訊きたいの?」
 若干棘のある物言い。
 俺が何も答えずにいると、
「了解了解。とりあえず上がったら?」
 と、家へ上がるよう促された。
「司はコーヒーだよね? できれば自分で淹れて。私が淹れてもいいけど薄くなるか濃くなるかは責任持てないよ」
 そんなことを言われて淹れてもらうのを待つ人間はいないと思う。