翠は高崎さんに聞きたいことがあると言って出ていった。今、自分の携帯を鳴らしたところで翠が出るとは思えない。
 部屋に入るとプリンターにセットされているコピー用紙に手を伸ばす。
 十階に来るように書いて玄関にでも貼っておけばいいだろう。
 そう思って家を出ると、九階で会いたくない人間に出くわした。
 話す前からにやにやしているところが最悪……。
「リィが下にいたからもしかして、とは思ってたんだけど、何? 初デートなのにもうバイバイしたの? 何、優等生っぽいデートしてんだか」
 鉢合わせたはずの人間に、待ってましたとばかりに突っ込まれる。
 イラついたままに顔を逸らすと、
「は? 何、その紙」
 気づいたときには遅かった。唯さんはコピー用紙の文面を注視していた。
 俺は仕方なくコピー用紙を唯さんに差し出す。
「これ、翠の部屋のドアに貼っておいてもらえますか?」
「何なに、今日中に渡したいものがあるから――って、まさかまだ誕プレ渡せてないのっ!? ……まじでっ!? 今日一日何やってたのさ」
 唯さんが何か口にするたびに不快指数が上がる。