玄関を開け先に中へ入ったものの、翠は玄関先でぼーっとしたまま。
 翠の手首を掴み引き寄せると、翠ははっとした表情で手を引いた。
「ツカサっ、私、高崎さんに訊きたいことがあるから今日はもう帰るねっ」
 そう言って踵を返した。
 俺は閉まった玄関ドアに唖然とする。
 翠は、今日がどんな日であるかの認識が甘すぎると思う。
 今日は翠の誕生日を祝う日で、俺はまだプレゼントすら渡していない。きっと日が暮れる前にはマンションへ帰ってこられるだろう。そう思っていたからこそ、マンションにプレゼントを用意していた。さらには多少は甘い展開を期待していたわけで……。
 帰宅して早々、玄関にしゃがみこむ羽目になるとは思いもしなかった。