翠の手から携帯を取り上げ自分の携帯を押し付けると、翠は申し訳なさそうに「ごめんね、ありがとう」と店内を歩きだした。こういうところで、「申し訳ないからいい」と拒否されなくなったあたり、少しは甘えてもらえるようになったのだろうか。
 ……これが「甘え」に入るか――いや、「甘え」には入らないだろう。なら何か……。
「身内」を頼りにするのと同等の信頼関係――たぶん、そんなところ。
 その後、翠の血圧数値が八十を切るか切らないか、というところまで落ち込むと携帯を鳴らす、という方法で翠を動かしていた。
 遠目に見ていたところ、翠は趣味のカメラコーナーと進路に関係しそうな場所を交互に移動して本を物色していた。それは三十分が経過する前に終わる。
 翠の手には本が二冊。繰り返し見ていた進路の手引き書と、写真集らしきサイズの本。それらを持ってレジへ向かうところを見ると、買う本を決めたのだろう。レジに並ぶ翠を見て、俺も数冊の本を手にレジへ向かった。

 血圧が下がりきる前には動いていた。しかし、翠の血圧は八十を維持できなくなってきている。
 本屋を出て体調を尋ねると、
「少し疲れたのかな……」
「なら、休憩」
 翠の手を取ると、いつもよりも冷たく感じた。もしかしたら店内のエアコンで冷えたのかもしれない。手近にソファがあったがそこは通り過ぎ、一階にあるオープンカフェまで行くことにした。