お風呂から上がって自室へ戻ると携帯がかわいい音色を奏でだす。私は動作を止めて携帯電話を凝視した。
 着信音が「いつか王子様が」。つまり、電話の相手はツカサなのだ。
 ツカサからの電話は、十コールは必ず鳴らしてもらえる。裏を返せば、十コール目で間違いなく切れる。
 脳内でカウントダウンが始まり、私は悩んだ末に携帯へ手を伸ばした。
「ツカサ……?」
 名前を呼んだあと、緊張に耐えかねて唾を飲み込んだ。ゴクリ、という音がやけに大きく聞こえたけれど、この音はツカサに聞こえてしまっただろうか。
『悪い、起こした?』
「え? あ……ううん。今、お風呂から上がったところで……」
『あ、そう。……翠、このあとの予定は?』
「え……? あ……髪の毛を乾かすことくらい?」
 言ってすぐに取り消したくなる。ツカサは何もそんなことを訊きたかったわけではないだろう。
「あのっ、とくにはないよ。いいお天気だから少しお散歩に行こうかな、とは思っていたけれど……。ツカサは今日も部活って言ってたよね? 今はお昼休憩?」
 会話が途切れることが怖くて、思いついたことを口にした。でも、こんな話題ではすぐに会話が終わってしまう。