「手……貸して」
 俺が口にすると、翠はさらに驚いた顔をした。
 考えてみれば、翠に手をつなぎたいと言われることはあっても、俺から手をつなぎたいと申し出るのは初めてのことだった。
「本当に、どうしたの?」
 今度は不安ではなく心配という視線をよこす。
「いいから手」
 半ば強引に翠の右手を取った。
 冷たい……。
 翠のことだから長時間の入浴を楽しんだずなのに、もう冷たくなっている。
「悪い……」
「……ツカサ?」
 何をどう話せばいいのか――普通に、そのままを話せばいいのだろうか。
 翠と向きあう。話をするとは決めてきたものの、どう話すか、という具体的なことは何も決めていなかった。
「ツカサ、何に対して謝られたのかがわからないから、許そうにも許せないのだけど」
 律儀にもほどがある、と言いたくなる返答だけれど、その言葉に救われる。話す取っ掛かりができた。