「司、わかっているとは思うけど、もう二週間だよ。そろそろ機嫌直すなり、要因と向きあうなりしなよ」
 ホームルームが終わるなり、朝陽はそう言って教室を出ていった。
 次の動作に移る気を殺がれ、なんとなしに窓の外へ目を向ける。と、翠が「春庭園」と呼ぶ中庭が目に入った。
 いくつかの花が咲く中、とくに目を引くのは藤棚。
 大して珍しくもないそれを見てため息をつきたくなる。
 機嫌が悪い原因はわかっているし、周りの人間に当たっている自覚もある。けど、どうしたらいいのかはわからないまま時間だけが過ぎ、気づけば二週間が経っていた。
 藤の会で見た翠は、未だ残像となって俺を悩ませる。
 日が変われば元に戻る。化粧をしていない翠なら問題はない――そう思っていたけれど、それは大きな間違いだった。
 化粧をせず、見慣れた制服を着ていても、俺は翠の唇や首筋を意識してしまう。
 髪を下ろしている日はまだいい。が、暑くなる日には髪を結ってくることもあり、首筋を露にする翠を直視することはできなかった。