先が予測できるのなら、そんな未来は回避すべき――。
「早期解決が正解ルート、かな……」
 口にして思う。少し考えたらわかることなのに、どうして二週間も放置してきたのか、と。
 過ぎた時間は取り戻せない。それなら、これからのことを考えなくては。でも今は――この坂を上ることに専念すべき……。
 私は小さな歩幅で坂を上ることだけに専念した。

 ほんの数粒涙が零れただけ――だから気づく人はいない。
 そう思ってマンションのエントランスに足を踏み入れると、観葉植物のメンテナンスをしていた高崎さんに迎えられた。
「翠葉ちゃん、おかえりなさい」
「高崎さん、こんにちは」
 普通の調子で話せたし、会話を続けられる自信もあった。でも、
「翠葉ちゃん、目、赤い……?」
「え……?」
「目が充血してるように見えるけど……」
 高崎さんは高い身長を折り曲げて、私の顔を覗き込む。
「あのっ、なんでもないのでっ、なんでもないことにしてくださいっ」
 私は意味のわからないことを口走り、エントランスを横切ってエレベーターに乗り込んだ。