私は涙を拭き取ると、誰にも会いませんように、と祈りながらテラスを歩いた。
 幸い、すでに部活が始まっている時間ということもあり、誰に会うこともなく学校を出ることができた。
 校門を出てから下り坂だった道は、公道に出た途端に上り坂へと変わる。その坂を上がり始めて十メートルと進まないうちに息が切れ始めた。
 いつもなら、坂の中ほどまではもつのに……。
 心当たりは十二分にあった。寝不足だからだ。
 寝不足はダイレクトに心臓にくる。そうとわかっていても、ぐっすりと眠れない日が続いていた。
 ツカサの変化に気づいてから、深く眠れなくなってしまったのだ。
 睡眠導入剤を使えば寝入ることはできる。けれども数時間で目が覚めてしまい、そこから再度眠るまでには一時間二時間とかかることも珍しくはない。だから、なるべく考えないようにしよう、と思っていた。
 しかし、現状を見ればそれがなんの意味をなしていただろう。考えないようにしたところでぐっすりと眠れるようにはならなかった。
 きっと、この問題が片付くまではそんな日が続くのだろう。そして、この身体の限界を越えて体調を崩すのだ。