じーさんと彼女が大藤棚の茶席へ入って三十分ほどしてから、俺は彼女を迎えに出る。
「翠葉ちゃん、いらっしゃい」
 おっとりとした動作で振り返る彼女は、きょとんとした顔で俺を見上げる。俺はそんな彼女の近くに片膝をつき、
「今日はいつも以上にきれいだね。赤い紅がよく似合ってる」
「秋斗さん、こんにちは。あの……口紅、本当に似合ってますか?」
 よほど自信がないのか、彼女の視線は紅と同じく赤い敷布に落とされる。
「とってもよく似合ってるよ。ショーケースに入れてずっと見ていたいくらい」
「それは褒めすぎです……」
 上目遣いは反則級のかわいさだ。そんな表情で見られたら、今すぐにでもキスをしたくなる。
 俺はその気持ちにブレーキをかけ、
「真白さん、じーさん、翠葉ちゃんを借りてもいいかな? 少し庭園を連れて歩きたいんだけど」
「かまわぬ。お嬢さんに失礼のないようにの」
「わかってる。翠葉ちゃん、行こう」