「……藤の会へようこそ」
 俺は屋敷の一角から、彼女がハイヤーを降りるところを見ていた。
 ハイヤーの近くにはじーさんが迎えに出ており、中から誰が出てくるのか、と人の視線を集めいている。
「ついにお披露目、か……」
 本当なら、俺の婚約者としてこの場に出席してもらう予定だったのにな。
 予定は早々に崩れ、今俺と彼女は――どんな関係にあるのかな。
 未だその答えは出ない。
 友人とは言いがたいし、顔馴染みや知り合いよりはもう少し踏み込んだ付き合いをしていると思う。……想う者、想われる者――そんな関係が一番しっくりくるかもしれない。
 何分、彼氏ポジションは司に持っていかれた。それでもまだ、彼女を諦めることはできないわけだけど。
「あーあ……あんなかわいく着飾って。みんな、どれだけ翠葉ちゃんを飾り立てれば気が済むのかな」
 さて、司はあんなに着飾った彼女をエスコートできるのかね。
 俺とは違う場所から彼女を見つめる司を見て、
「トップバッターはじーさんに奪われて正解なんじゃない?」
 思わずそんな言葉が口から漏れるほど、司は彼女を食い入るように見ていた。