庭に面する廊下を歩いていると、
「ここまで長い廊下を見たのは初めて。お庭も広いけど、お屋敷も広いのね?」
「それなりに」
「ここには元おじい様しか住んでいらっしゃらないの?」
「……じーさんの呼び方変わった?」
「あ……あの、今日会ったときにね、『朗元さん』とは呼ばないように、って言われたの。それで、『元おじい様』と呼ばせていただくことになって……」
 そんなことを口にするのにも、翠は頬を赤らめる。
 翠が頬を染めれば染めるほど、自分の欲求を抑えきれなくなっていく。応接室に入ってすぐ、障子を閉めた俺は翠を引き寄せキスをした。
「ツ、ツカサっ?」
 口付けたら紅がつく――わかっていても抑えることができなかった。
「……口紅、ついちゃったよ?」
 翠は困った顔に笑みを浮かべ、胸元から懐紙を取り出した。渡された滲み止めのされていない懐紙で口元を拭くと、真っ白な懐紙に紅が滲む。紅は懐紙によく映えたが、翠の唇に引かれたもののほうが鮮烈な印象を受けた。